活殺!きんたまつぶし


第三話・千のきんたま、動き始める巨悪…!?



 孤高の女、玉袋ネジルの歩いた道には塵ひとつ残らない!
 今日も彼女は不毛の荒野を独り歩くのであった。
 とそこへ!

「貴様が玉袋ネジルか」

 背後より男の声。振り向くネジル。
 おお、そこには身の丈2mはあろう大男が仁王立ちしているではないか!男は生気の失せた、だのに眼のみがらんらんと輝く不気味な顔をして目下のネジルを見下ろしているッ!

「そうだ」
「よし。死んでもらう」
「いや、ずいぶん急やな、きみ。急やな、きみ。二回言った。急やな、きみ。三回。貴様なにものだ」
「冥土のドサンに教えてやろう…千のきんたまを持つ男、とでも呼んでくれ」
「千の…」
「とくと見るがいい我が奥義千景!」

 怪奇!男は股間から伸びている謎の物体を掴むやいなや、それをくさりがまのように振り回したではないか!
 悪臭を放ちながら謎のくさりがまは獲物狙う猛獣のひとみのごとく円を描き、回転す!

「そのくさりがま、もしや!」
「そうよきんたまよ!」

 あろうことかこの男、異常発達した自分のきんたまの皮を利用し、これを武器にしているのだ!
 ゴム状に伸びるきんたまの皮と、その先端についたきんたまのすさまじいスピード!そのスピードはあたかもミハエル・シューマッハのごとく!ネジルはそのスピードに翻弄、それはあたかもミハエル・シューマッハに追い詰められるアイルトン・セナのごとく!

「こ、これはもしや古代玉道・田虫派の秘儀にして禁じ手である…千ノ金玉ッ!?千ノ金玉を会得する方法が書かれた秘伝書など、もうないはずだ!」

 慌てるネジル。きんたまの勢いとどまることを知らず!加速度的に加速度を増してゆくきんたま、ついには残像を描きはじめた!関係ないがバリ島にはキンタマーニという高原がある。
 残像によって、あたかもきんたまはその数百、いや千にも見える!そう、千ノ金玉とは恐るべき速度できんたまを振り回すことによって生じる残像を利用し、相手をかく乱する秘術なのだ!

「どうだ!これが千のきんたま也!」
「ウグワー」

 がしかし!

「ウウッ、な、なんだッ!?」

 とつじょ、きんたまに走る違和感!裂けるような痛みが縦横無尽にきんたまを襲う!

「ガロロォー!」

 きんたまが、分裂!
 あまりの速度に耐え切れなくなったきんたまの皮ぶくろが裂けたのである!
 砲丸投げの要領できんたまは空へと飛翔した!そう、それはイン・ザ・スカイ!
 きんたま、大気圏突破!SFの知識はないので大気圏越えるとどうなるのかはよくわからない!燃え尽きるんだっけ。
 きんたまは華麗に宇宙という名のスペースにリボンを結ぶかのごとく尾を引きながらどこまでも飛んでゆく!それはハレー彗星のようである!


「くっ、援護部隊はまだ来ないのかっ!」

 地球から何億光年も離れた宇宙の最果ての地!ダゲヒネ星宇宙騎士団とコポン・デコポ星雲系侵略軍が激しいレーザー戦を繰り広げていた!

「無駄ナ抵抗ハヨセ・ダゲヒネ諸君・早ク降参シテ超兵器ドミネフ666号ヲコチラニ渡スガヨイ」

 コポン侵略軍准将・ナハトムジーク鎌足の冷酷なる通信がダゲヒネ側の宇宙船に入る。

「ふざけるなっ!666号は俺たちに残された最後の望みだ!お前たちに渡せるものかっ!」

 ダゲヒネ軍の若き猛将・ジャミルスが怒鳴る!しかし鎌足はさらに冷酷な追い討ちをしかける。

「下等種族メガ・ソコマデ死ニタイナラ望ミドオリニシテクレル・貴様ラガ不利ナノハ貴様ラガ一番ワカッテオロウ」
「くっ…!くそうくそう!」

 ダゲヒネ軍宇宙船の内部を絶望的な沈黙が襲う…!

「おい、たしかポドノフ・クメトレハミュルン・オノプ・ノプ・カチャブレーラ型ミサイルがまだ残ってたよな…?」

 ダゲヒネ軍のムードメーカー、アブリル・ビンラディーンが口を開いた。

「ああ、ある…しかしあれはリモート・コントロールシステムが壊れてる…あれをぶつけるには、誰かがミサイルを操縦して…特攻するしかないんだ」
「お、俺…それやってみるよ」
「なッ…!?何言ってんだよビンラディーン!?」

 クルー内にどよめきがおこる!

「ビンラディーン、馬鹿なこと言うんじゃねえよ!」
「本気さ、俺は…」
「なに言ってんのっ!あんた…あんた妹さんはどうすんのさ!?あんたが死んだらあの子どうなるのよ!?」
「ヘヘッ、あいつは強い子だよ。俺がいなくたってやってけるさ…」
「なにもビンラディーンのあにきが犠牲になることないでやんす!ウワーン」
「誰かが犠牲にならなきゃいけないんだろ…?なら俺がいくさ。皆に…死んでほしくない」
「アピャポプネ、カッチャロピ。ビンラディーン、クポノヘッパ、チャルプンチャルプンゲプ、ドモーポ!」
「ごめん何言ってるかわかんない。なんか俺の名前出てきたのはわかるけど」
「…本気なんだな」
「…ああ」

 クルー内に、ふたたび沈黙!

「ははっ、なに深刻な顔しちゃってんだよっ!いいじゃん、カッコイイじゃん、祖国のために死んでった英雄なんてさ!星に帰ったら、俺のことかっこよく伝えといてくれよ〜?」

 ビンラディーンがいつものように、明るく振舞おうとすればするほど、クルー内は黙りこくった。
 ジャミルスが言う。

「…これがミサイルのキーだ。…祈ってるぜ」
「…おうよ」

 ジャミルスの手から、ビンラディーンの手へとキーが渡される。その手は柔らかかった。

「じゃあな!お前ら、この戦争負けたら許さないぜ?オバケになって出るかんな〜、ヘヘッ」

 明るい顔のビンラディーン、その足元は震えていた。
 ビンラディーンが部屋から去ると、ジャミルスがちくしょう!と一声怒鳴った。誰も何も言わなかった。
 ビンラディーンの操るミサイルがコポン軍宇宙船へと飛ぶ!

「元気でな、クルーの皆…そして、ツイタテダヌーキー・アマッビエ・カタワグルムーア・センポクカンポク・ガッシャドクウル・ドゥモ・コゥモ・イジャコロガッスィー・オトロ・オトロ・ヨナルデパズトーリ・タン・タンボ(妹の名前)…」

 しかし!

「馬鹿メ…!」

 あまりにもあっけなく、ミサイルはコポン軍の放ったレーザーにより朽ち果てた…!

「ビンラディーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!」

 クルー内を悲痛な叫びと絶望が支配する。

「ワカッタカ諸君・抵抗ハムダダ・アトハ奇跡デモ祈ルノミ・ソノ奇跡モ貴様ラニハナイダロウガ…ヌ?」

 そのとき、かなた上空より謎の彗星が来る!

「ジャミルス、あれは!?援護部隊が来たんじゃないか!?」
「いや、違う…!なんだあの光は…!?」

 金色の輝きが暗闇の宇宙を照らす!
 それはかなたより飛んできたきんたまであった!

「鎌足准将!空間E-840ヨリ謎ノ物体確認!」
「ナニ!?次元崩壊装置ニヨッテココノ位相ハ歪メテイルノダゾ!?外部カラノ接触ナドアリエン!」
「コチラニ向カッテオリマス!レーザーガキキマセン!マッタク未知ノ物体デス!!」
「ナンダトオォ!」

 きんたまがコポン軍宇宙船に近づく!その、まばゆい、神々しい光よ!

「グワアアァァァァーーーアーーアーアーーーーーアーーアアーー」

 きんたま貫通、コポン軍宇宙船、爆発!神の授けた奇跡に感動するダゲヒネ軍!

「奇跡だ…ビンラディーンが…奇跡を呼んだんだ…」
「うおおぉぉ!やったぜ!」
「しかしあの光の玉はなんなんだ…?」

 こうしてザルムン世紀・デギゼマーネル0-X戦争はこれがきっかけでダゲヒネ軍優勢になった…。



 それとはまったく関係なく、再び地球。

「恐ろしい敵だった…しかし…何か嫌な予感がする…」

 倒れた千のきんたまの男を尻目に、ネジルは、巨大な悪が動こうとしている感覚に不安を覚えていた…。


つづく!!!