奇漫画ベストチョイス



 オバケや地獄を描きながらも、方向性のまったく違う作品がある。たとえば楳図かずおと水木しげるは、どちらも異界のもの・異物を描きながら、その位置は対極と言ってよい。かたや異形のものへの恐怖感を描く楳図に対して、異形のものへの憧憬を描く水木。

 前者のような異形への恐怖を描いた作品を恐怖漫画、憧憬を描いた漫画を怪奇漫画と呼びたい。二卵性双生児のような、共通点を有しつつもまったく違うこの2ジャンルのうち、今回は怪奇漫画にスポットを当てたい。

 さて、論より証拠とはよく言ったもので、どれだけ長ったらしく語るよりも、実物を示すほうがてっとりばやい。というわけで僕が「こいつぁ怪奇漫画だぜ!」とひざを打った愛すべき漫画を古今東西問わず紹介したい。




水木しげる/鬼太郎夜話

 ごぞんじ国民的漫画家・水木しげる先生の描いた傑作怪奇漫画。貸本時代の作品を下敷きにしている。これを水木が雑誌ガロに連載していたのはちょうど1967年。この前後、66年に水木は短編『テレビくん』で賞をとり、68年には鬼太郎がアニメ化される。この『夜話』は水木ブレイクスルー前夜とでも言うべき脂ののった時期の連載なのだ。

 牛鬼、吸血木、猫娘、にせ鬼太郎、水神、狼男……とにかく、ひとくせもふたくせもある、うさんくさい奇妙な連中がうごめく不可思議な長編。東京は水没するわ、地獄に落ちるわ、森脇正光や三島由紀夫は出るわ、荒唐無稽の連続。それでもこの作品がたんなるハチャメチャに終わらず、上質な怪奇漫画として読めるのは、全体に漂うにおうユーモア、統一されたそっけないテンポ、そしてジェームズ・アンソールからオディロン・ルドン(どちらも奇妙な絵を描く画家)にまで及ぶ膨大な怪奇文化からの引用と水木の天性の怪奇的センスの奇妙な混ざりあいによるものだろう。


  
地獄の風景。なんとも不気味な静寂が漂う。


マックス・アンダーソン/デス&キャンディ

 短編映画監督から漫画家になったという、異色の経歴を持つドイツ在住作家、マックス・アンダーソン。日本で唯一出版されている彼の著作が『デス&キャンディ』だ。長編『ピクシィ』と短編集『カー・ボーイの冒険』の二冊セットの単行本。

 トーンの一切使用されない、モノクロの歪んだ世界。極端にデフォルメされた登場人物たち。どうしようもなくイビツで荒れた線で描かれる、奇妙なファンタジー。僕は『カー・ボーイの冒険』が気に入っている。頭がクルマになってるカー・ボーイと、同じように頭がトラクターになってるトラクター・ガールだとか、ひたすらサンタクロースのためにおもちゃを掘り続けるおもちゃ炭鉱だとか、どことなくメルヘンで自由な発想が楽しめる。


  
メルヘンかつブラックなキャラクタ


押切蓮介/でろでろ

 押切蓮介と次の松井優征はどちらもメジャー誌でバシバシ怪奇漫画を描いているウレシイ存在。両氏の活躍によって、マニアのあいだでのみほそぼそと生き残っている怪奇漫画がメジャーで再び活躍してくれれば嬉しい。

 この作品はヤングマガジンで連載されている。現在既刊が9巻、なかなか好評なようだ。氏は池川伸治や好美のぼると言ったB級貸本ホラーからヒントを得て作品を描いているらしいが、スゴイと思うのは、そういうマニア間でのみしかウケなさそうなものを、ちゃんとメジャーでウケるように昇華している点だ。「わかる奴だけわかりゃいい」の精神は、一歩間違えばどうしようもない駄作を生んでしまう。ちゃんとエンターテイメントというカタチにしているのはスゴイことだ(メジャーでウケるようにするのと、ただ売れるために描かれているのとは違う)。

 ただ最近はややほのぼの路線が強くなっている気がする。むろんそれでも面白いのだが、怪奇という点では初期のでろでろをオススメしたい。ちなみにでろでろ以前の短編は『ドヒー!オバケが僕をペンペン殴る!』『マサシ!うしろだ』に収録されている。こちらはさらに怪奇性が濃ゆいが、ちょっと濃すぎる。むろん僕は大好きだが、少々アクが強すぎるので、最初は『でろでろ』をオススメしたい。


  
霊魂をストローで吸う主人公…


松井優征/魔人探偵脳噛ネウロ

 天下のジャンプでこんな怪奇漫画が連載されているなんて……『ぬ〜べ〜』以来じゃないですかねえ。もっともあんまり『ぬ〜べ〜』好きでないですけど。

 アール・ブリュットじみた、もっと乱暴に言えばキチガイじみた絵がドンドン画面を覆う。話のほうが絵の猟奇性に対して若干低い気もするが、ジャンプではこれが限界だろう。ネウロが垣間見せる怪奇で、かつスタイリッシュな殺陣がものすごくキモチワルク、カッコイイ。カルト漫画マニアから言わせれば「まだヌルい!」という声が挙がるかも知れないが、ジャンプにこれが載っている、という点でじゅうぶん賞賛できる。これをきっかけにジャンプに怪奇漫画が、少しでもいい、確実に二本くらいつねに連載されてほしい。もうガキが日本刀振り回すサムライアクションはいらん。


  
まんまアール・ブリュット


逆柱いみり/はたらくカッパ

 怪奇漫画とユーモア。それはきっても切り離せない。高い怪奇性と、それと同等のユーモア、これが傑作怪奇漫画を生み出す。その点、逆柱いみり氏の描く作品、これはスバラシイ。氏は『日系宇宙人』とでも称するほかないほど、日本的(アジア的)でありながら、宇宙的な発想を作品にぶつけていく。

 めくるめく異界の風景と、そこを練り歩くフリークスたち。どれも毛だらけだったり、肌がコンニャクだったり、ブサイクな顔をした気色の悪い連中なのだが、どこかユーモラスで、愛らしい。それはたぶん擬音や台詞のなまりなど、言語感覚に負うところが大きい。なんでもなく書かれるコトバたちが、とにかく個性的なのだ。塗り仏のようなコンニャクきちがいは「ほやいいーっと ぴょおー」と叫びながら舌を伸ばし、カッパは「キョキョキョ」と笑い、ものを食べるときは「ンンガガウンガー」だ。もう楽しいのなんのって…。

  
ユーモラスなフリークス



 さて、とりあえず自分のお気に入りを挙げてみた。と言っても僕がこのへんの漫画を意識して読み始めたのはここ一年ほどであろう。「こういうのだってあるぜ!」という皆さんのオススメもぜひ聞きたい。 そのときはご一報を。